国語問題 (冒頭部分)  志賀直哉/初出「改造」(昭和21・4)

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国語問題 (冒頭部分)

志賀直哉/初出「改造」(昭和21・4)



 今程厳しい時代を日本は嘗て経験した事がない。色々な問題が怒濤のやうに後から/\寄せて来る。茫然自失の虚脱状態になるのも無理はない。一番不安なのは食糧問題である。近頃又、食膳が急に寒々として来た。去年の今頃のやうにそれが心身にこたへて来る事を思ふと、憂鬱になる。インフレの問題、教育の問題、失業の問題、何れも大変な事ばかりだ。外地の同胞、殊に北鮮から満洲の日本人はどうなつてゐるのか。消息が少しも分らない。街には伝染病が出始めた。色々な犯罪が家常茶飯事のやうに横行する。しかも、それらへのキビ/\した対策は何一つ行はれてゐない。只、吾々としては、云ひたい事が云へるやうになつた事、寝る時間に寝て、翌朝まで眠れるやうになつた事、これだけをありがたいと思つてゐる。
 前に挙げた数々の問題は何れも大きな問題で、中には急を要するものもあるが、この他にもう一つ大きな、国語の問題がある。急は要しないが、日本の将来を考へれは、これが一番大きな問題とも云へる。
 吾々は子供から今の国語に慣らされ、それ程に感じてはゐないが、日本の国語程、不完全で不便なものはないと思ふ。その結果、如何に文化の進展が阻害されてゐたかを考へると、これは是非とも此機会に解決しなければならぬ大きな問題である。此事なくしては将来の日本が本統の文化国になれる希望はないと云つても誇張ではない。


(続きは書店または図書館にて...)



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