真理先生 (冒頭部分)武者小路実篤/初出「心」(昭和24・1〜25・12)

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真理先生 (冒頭部分)

武者小路実篤/初出「心」(昭和24・1〜25・12)



     一

 これも山谷五兵衛の話。
 僕は最近真理先生を知った。真理先生という人がいることは僕は友達からずいぶん前から知らされていた。しかし僕は食わず嫌いで、逢いたいとは思わなかった。どうも虫が好かなかった。誇大妄想狂のように思われたし、偽善者のようにも思われたし、道学者の出来損いのようにも思われた。いつも真理真理と言って真理を知っているのは自分だけだという顔をしているように思われた。
 ところがあってみると、ごく真面目な男にはちがいないが、噂に聞いて想像したのとはまるで違って、真剣なところのある男だ。僕のことだから相手がどのくらい、学問があるかないかは知らないが、ともかく僕の逢った多くの優れた人間のうちでも、一番精神力の強い男だということは一目でわかった。これでは多くの人に尊敬されるのも当然と思った。身体は大きくない。体力は強いとは言えない。しかしへんに精神力を感じさせる顔だ。齢は六十を越しているだろう。僕は日本に人がいないとよく人から聞かされもし、自分でも言っているが、もしかしたら、真理先生は、大物ではないかと思う。もしかしたらである。僕にはまだはっきりしたことは言えない。


(続きは書店または図書館にて...)



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