特別阿房列車 (冒頭部分)内田百輭/初出「小説新潮」(昭和26・1)

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特別阿房列車 (冒頭部分)

内田百輭/初出「小説新潮」(昭和26・1)



 阿房と云ふのは、人の思はくに調子を合はせてさう云ふだけの話で、自分で勿論阿房だなどと考へてはゐない。用事がなけれはどこへも行ってはいけないと云ふわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思ふ。
 用事がないのに出かけるのだから、三等や二等には乗りたくない。汽車の中では一等が一番いい。私は五十になった時分から、これからは一等でなければ乗らないときめた。さうきめても、お金がなくて用事が出来れば止むを得ないから、三等に乗るかも知れない。しかしどっちつかずの曖妹な二等には乗りたくない。二等に乗ってゐる人の顔附きは嫌ひである。
 戦時中から戦後にかけて、何遍も地方からの招請を受けたが、当時はどの線にも一等車を聯結しなかったから、皆ことわった。遠慮のない相手には一等でなければ出掛けないと明言したが、行くつもりなのを、さう云ふ事情でことわったのでなく、もともと行きたくないから一等車を口実にしたのだが、終戦後、世の中が元の様になほりかけて来ると、いろんな物が復活し、主な線には一等車をつなぎ出したから、この次に何か云って来たら、どう云ってことわらうかと思ふ。


(続きは書店または図書館にて...)



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